北川貴英さんからの寄稿
茶帯を頂きました。
早速、諸先輩方から茶黒ルールの洗礼を受け、心と膝が折れそうです。
そこそこ強い紫帯のおじさんが、茶帯最弱おじさんに成り下がったのを痛感します。
大輔さんによると、私は青帯から茶帯まですべてパトスタジオで授与された、
生え抜きの茶帯の記念すべき第一号だそうです。
以前は帯授与式でのスピーチがありましたが、コロナ騒動で中断してしまっています。でもせっかくの第一号なので、代わりに記事を投稿することにしました。
まずお伝えしておきたいのは、パトスタジオのベーシックカリキュラムはスゴイ、ということです。
これを追加料金なしの月謝の範囲内で受けられるだけでも、パトスタジオで柔術をやる価値があります。
テクニックだけでなく、ウォームアップのソロムーブや、20回ずつこなす打ち込みまで、全て考えつくされています。
さらに頻繁なアップデートによって技術の鮮度も保たれ、常にもっともナウい柔術に対応したかたちになっています。
ベーシックカリキュラムは4ヶ月刻みなので、1年で3周します。私は6年間でおよそ18周したことになりますが、テクニックの半分も使えていません。スパイダーガードなんて試合で使えた試しがないですし、コヨーテガードとかもう意味が分かりません。
その程度の習熟度ですが、私とアヤ(※編集部注:同じくPATO STUDIO在籍、柔術紫帯の奥様)がそこそこ良い結果を残せているのは、やはりベーシックカリキュラムのお陰です。
最近は定期的に大輔さんのプライベートレッスンを受けていますが、そこで練習するものほぼすべて、パトスタジオの会員なら誰でも知っているような、ベーシックカリキュラムのテクニックです。でもどの局面でどの技を使うのかを整理し、手足を置く位置やタイミングを微調整していくことで、ベーシックの威力がどんどん上がっていくのです。
ベリンボロとかディープハーフといった応用的な技をやるにしても、やはりベーシックが強力な助けとなります。
例えばベリンボロを仕掛けるには基本的にデラヒーバガードになる必要がありますし、デラヒーバの前段階として片襟片袖のオープンガードが必要です。ディープハーフも、ガードを突破されそうなところをギリギリ踏みとどまる成り行きまかせのディープハーフではなく、自分から仕掛ける攻撃的なディープハーフにするには、ニーシールドハーフなどベーシックで学ぶガードポジションを経由して、相手の股下までじわじわと攻め込んで行くことになるでしょう。
ワームやスクイッドのようなラペラ系もそう。最初からラペラが出ているわけではありません。クローズドガードや片襟片袖オープンガードに相手を閉じ込め、ラペラを引き出してから、アタックを仕掛けることになります。(私はどれも使わないので、詳しいことはよく分かりませんが)(※編集部注:かなりわかっているでしょう(笑))
だから結局、クローズドガードと片襟片袖オープンガードのクオリティが高ければ、そこから派生するあらゆるガードポジションからのアタックも攻撃力が高まります。あえなくガードが破られて攻め込まれた場合も、クローズドガードや片襟片袖ガードに退避して、登山におけるベースキャンプのように風雨を凌ぐこともできます。つまりクローズドと片襟片袖は攻撃と防御の両方のターミナルとなるのです。
柔術にはたくさんガードポジションが出てくるので、覚えるのが大変かも知れません。でも全部の中心にクローズドガードと片襟片袖のオープンガードであると考えると、頭の中での整理がしやすくなるのではないでしょうか。実際にベーシックカリキュラムを何周もしていると、片襟片袖とクローズドガードが攻撃の起点にして、避難場所であることがよくわかります。
「だったらクローズドガードと片襟片袖だけちゃんとやれば強いんじゃね?」と、青帯の時に思い至って以降、そのままずるずると茶帯まで来てしまったのが私です。もっとオシャレな柔術をしたいと色気を出して、色々なガードの練習をしたこともあります。でも結局、主戦力として使ってるのは古臭くておよそ令和らしからぬクローズドガードと片襟片袖です。
白帯や青帯など、ジム内に格上の人のほうが多い状況では、ベーシックの技術はかなり高い確率で失敗してしまうでしょう。それは単に、先輩方のほうがベーシックをより詳しく理解しているからです。理解度が高ければ潰し方もわかるので当然です。そんな理由でジム内のスパーでは全く使えなかったベーシックが、思わぬ威力を発揮する場面があります。それは試合です。クラスのたびに20回やっていた打ち込み、よく分からないまま何周もこなしたベーシックが突然、火を噴きます。ジムでは全然かからなかった技がすんなりかかったり、無我夢中で出した技でよく分からないうちに勝てたりします。そういうことが起こるのは、ベーシックの繰り返しによって、いつしか身体が技を覚えてしまったからです。そのようにカリキュラムが構成されているからこそ、巣鴨の片隅の小さなジムが、全国展開する大手ジムと肩を並べるほどの結果を出してしまうのです。
もちろん、試合に勝つだけが柔術の楽しみ方というわけではありません。
仲間とのコミュニケーションや取っ組み合いがただただ楽しい、というのも全然アリだと思います。
ただ優れたプロダクトには、だいたい優れた設計思想があります。
パトスタジオのカリキュラムからは、「試合に勝つ楽しさを全員に体験してもらいたい」という設計思想が溢れんばかりになっています。
試合は疲れるし、怪我するし、相手は怖いし、減量も大変です。さらに最近は参加料も値上がりしています。
そもそも出て勝ったところで、なんの得もありません。
でもやはり、努力の成果が結果に出るのは、シンプルに楽しいですし、達成感が味わえます。いわゆる自己効力感というヤツも爆アゲです。
だからこそ、これだけ多くの人が柔術にハマるのでしょう。
パトスタジオのカリキュラムは、そんな柔術にハマってしまう人に、ハマるものだと思います。
私の次の目標は、パトスタジオ生え抜きの黒帯になることです。さらにベーシックを突き詰めた先に、その達成があると思います。
インストラクターの皆様、練習仲間の皆様、引き続きよろしくお願いいたします。
北川貴英